Debian JP Project

(for vocal browsers: toc, main)

Google
WWW 全体 www.debian.or.jp 検索

Debian GNU/Linux クイックインストール解説 (Etch/Lenny 編)

この文書は、『Software Design』誌(技術評論社)2006年6月号の特集「Debian GNU/Linuxを究める」に寄稿され Debian JP Project にてその後公開された記事 (筆者および技術評論社の許可済み) に、Debian GNU/Linux 4.0 Etch 向けの加筆修正を施したものです。

(前バージョンの Debian GNU/Linux 3.1 Sarge 向けのクイックインストール解説は、ここをクリックしてください。)

武藤 健志 <kmuto@debian.org>

編注:Lenny についての説明は準備中です。なお、Lenny の場合も基本的に Etch とインストーラの動作や設定はあまり変わりません。決定的に違うのは利用するダウンロードするファイルです。不安な場合は、日経 ITPro の「インストール完全ガイド Debian GNU/Linux 5.0」なども参考にしてください。

Debian GNU/Linux 4.0 Etch のインストーラは、「Debian-Installer」(d-i)と呼ばれるモジュール型インストーラとなっています。d-i は小さな機能を持つモジュールの集合体であり、組み合わせを変えることで、CD、ネットワーク、USBメモリ、フロッピーディスクといったさまざまな媒体に対応できるようになっています。

公式 CD あるいは DVD をすでに手に入れているならそれに越したことはありませんが、ADSL や光などのブロードバンドネットワークと内蔵ネットワークデバイス(あるいはほとんどの PC カードと、有線の CardBus デバイス)があるなら、巨大な公式 CD イメージをダウンロードしなくても、小さなブート CD を作るだけで残りはネットワークから随時取得するようにできます。ここでは、Intel IA-32 (x86) アーキテクチャのマシン向けに、最小 CD + ネットワークを使って、基本インストールからデスクトップ環境を構築するまでの手順を説明します。いずれにせよ、Debian を使う上でインターネットアクセスはほぼ必須です (特にインストール時には無線ではなく LAN ケーブルでの接続がトラブルが無くお勧めです)。

CD とディスクの準備

公式 CD あるいは DVD を入手していない場合、まず、配布 Web ページ(http://www.debian.org/CD/netinst/)から、ネットワークインストール CD の ISO イメージファイル (160MB 程度)debian-40r6-etchnhalf-i386-netinst.iso、あるいは debian-40r6-i386-netinst.iso)をダウンロードし、適当な CD 作成ツールを使って CD-R に焼き付けます。Lenny の場合は、こちらのページから適当なファイルをダウンロードして、CD 作成ツールを使って CD-R や DVD-R に焼き付けます。

d-i は Windows の FAT および NTFS のパーティションのサイズ変更が可能なので、インストール対象のディスクに事前に空き領域を作らなくても一応は対処できますが、これは若干わかりにくいので、操作中に誤って全部を消してしまう恐れはあります。シマンテック社の Partition Magic や Knoppix の QtParted といったよりわかりやすいツールを使って事前に空き領域を作っておくのもよいでしょう。500MB 程度でも文字ベースであれば一応の環境は整えられますが、GUI デスクトップ環境を構築する場合、最低 3GB 程度の領域が必要です。いずれにせよ、ディスクにある重要なデータはバックアップしておくのが賢明です。

起動と基本セットアップ

では早速、作成した CD を使ってインストールします。d-i はさまざまな補助機能を持っていますが、ここでは最小手順のみ紹介します。

  1. 作成した CD を入れて起動すると、Debian のロゴとプロンプトが表示されます(図1)。
    Debian-Installer の起動
    図1●Debian-Installer の起動
    そのまま Enter を押すと文字ベースのインストーラが起動します。「installgui」と入れて Enter を押すと、ウィンドウシステムを使った GUI インストーラが起動します。GUI インストーラの主目的は多言語サポートのためであり、文字ベースよりも優位性がそれほどあるわけではありませんが、ここでは installgui で進めてみることにします。
  2. インストーラがロードされ終わると、まず言語の選択画面が表示されるので、マウスを使ってリストをスクロールして、「Japanese - 日本語」を選び、ダブルクリックするか「Continue」をクリックします(図2)。文字ベースインストーラの場合にはカーソルキー↑↓で候補を移動して、Enter を押してください。続くキーボードの選択では、日本語キー配列の場合、デフォルトの「日本(106キー)」のまま「続ける」をクリックします。
    言語の選択
    図2●言語の選択
  3. 拡張インストーラモジュールを読み込むために必要なネットワークデバイスの自動認識が行われ、このマシンに付ける「ホスト名」と「ドメイン名」を指定するよう要求されます。利用しているネットワークに合ったものを入力してください。これで、DHCPによる自動ネットワーク設定が行われます(DHCPサーバが見つからないときには静的指定するかどうか尋ねられます)。
  4. 必要なインストーラモジュールがダウンロードされ、ハードディスクが検出されます。これからいよいよパーティショニングという注意を要する作業に入ります。発見されたディスクデバイスと、「ガイド - 最大の空き領域を使う」(空き領域を作っている場合)、「ガイド - ディスク全体を使う」、「ガイド - ディスク全体を使い LVM をセットアップする」、「ガイド - ディスク全体を使い、暗号化 LVM をセットアップする」、「手動」の選択肢が示されます。
    • ガイド - 最大の空き領域を使う:事前に用意した空き領域を使う場合に選択する。
    • ガイド - ディスク全体を使う:何も OS がインストールされていない、あるいは全内容を消してもよい場合に選択する。Windows がインストールされており削除したくないときには選ばないように!
    • ガイド - ディスク全体を使い LVM をセットアップする:「ディスク全体を使う」とほぼ同様だが、大規模なディスク運用を行うのに便利 (かつ少しややこしい) な LVM (論理ボリューム管理) でパーティションを構成する。
    • ガイド - ディスク全体を使い、暗号化 LVM をセットアップする:「ディスク全体を使い LVM をセットアップする」とほぼ同様だが、ディスク内容をパスワードで暗号化する。
    • 手動:Windows パーティションをここで縮小したいときや、インストール時点で複雑なパーティション構成を使いたいときに選択する。図3の画面に直接行き、手動でパーティションを作成・削除・変更・設定する。
  5. 「ガイド」と付けられたもののいずれかを選ぶと、お任せのパーティション構成として「すべてのファイルを1つのパーティションに」「/home パーティションの分割」「/home, /usr, /var, /tmp パーティションを分割」を選べます。デスクトップ用途では「すべてのファイルを1つのパーティションに」で十分です。
  6. パーティショニング計画の結果が表示されます(図3)。問題がなければ「パーティショニングの終了とディスクへの変更の書き込み」が選択された状態で「続ける」をクリックし、続く「ディスクに変更を書き込みますか?」の設問で「はい」にチェックを付けて「続ける」をクリックします。各パーティションをダブルクリックすると、パーティションのサイズの拡大・縮小(Windows パーティションでも可能)や、ファイルシステム形式を ext3 以外のものに変更したりできます。
    パーティショニング計画
    図3●パーティショニング計画
  7. 次に、システム管理者である特権ユーザー「root」のパスワードの入力とその確認、新規に作成する一般ユーザの名前、ログイン名(アカウント名)、パスワードとその確認を行います。
  8. 基本システムのインストールが終わると、追加パッケージをネットワークから取得するかどうか尋ねられます。ネットワーク CD には基本システムしか収録されていないので、ここでは「はい」を選びます。
  9. 国名、サーバーを順に選びます。「日本」→「cdn.debian.or.jp」が妥当な選択肢です。プロキシの利用の有無を尋ねられますが、企業内 LAN などでない限りは設定の必要はないでしょう。
  10. パッケージ人気コンテストである popularity-contest に参加するかどうか尋ねられます。匿名でも情報を送ることにためらいがあるなら「いいえ」を選んでください。
  11. 続いて、機能別にパッケージを集約したソフトウェアコレクション(タスク)の選択になります(図4)。デフォルトで「デスクトップ環境」と「標準システム」にチェックが付けられています。ディスク容量が小さかったり、サーバ環境では、「デスクトップ環境」を外してもよいでしょう。
    ソフトウェアコレクションの選択
    図4●ソフトウェアコレクションの選択
  12. 多数のパッケージのダウンロードとインストールが行われます。途中で X ウィンドウシステムの設定として、利用したい解像度が尋ねられます。デフォルトでは1024×768が選択されていますが、より高い解像度を利用したい場合にはそれを選んでください。なお、NVIDIA や ATI の新しいビデオカードでは、後からドライバを追加インストールしないと高解像度や 3D 機能が使えないことがあります。
  13. 最後に、ブートローダ GRUB をディスクの MBR 領域にインストールしてよいか尋ねられます (図5)。「はい」を選んでブートできるようにしましょう(GRUB は、メニュー形式で Linux だけでなく Windows もブートできます)。最後に再起動を要求されるので、CD を取り出し、再起動を行います。
    GRUB のインストール
    図5●GRUB のインストール

ログインと GNOME の操作

再起動して GRUB のメニューが表示され、そのまま待つと、Debian が起動し、GUI のログイン画面が表示されます(図6)。root のログインはデフォルトでは禁止されているので注意してください。インストール時に作成した一般ユーザのユーザ名、パスワードを入力してログインしましょう(図7)。

GUI ログイン画面
図6●GUI ログイン画面
GNOME デスクトップ環境
図7●GNOME デスクトップ環境

GNOME の操作についてはここでは説明しませんが、基本的にマウス操作のわかりやすいインターフェイスなので混乱することは少ないでしょう。「アプリケーション」メニューから「アクセサリ」→「GNOME 端末」と選べば、なじみ深いシェル端末を呼び出せます。

パッケージの追加インストールなど、root の操作が必要なときには、一般ユーザでログインしたあと、メニューの「アプリケーション」→「アクセサリ」→「Root Terminal」を呼び出して、root のパスワードを入力します(または一般ユーザの端末で su コマンドを実行します)。シャットダウンを行うには、「デスクトップ」→「シャットダウン」を選びます。もちろん、root の状態で次のようにしてもシャットダウンできます。

# shutdown -h now

ウィンドウシステムがうまく起動しない、あるいはデフォルトの解像度を変更したい、といったウィンドウシステムの再設定は、root の状態で日本語コンソールまたはシェル端末を起動したあと、次のように行います。

# dpkg-reconfigure --default-priority xserver-xorg

コンソールでの日本語表示

文字コンソール上ではそのままでは日本語を表示できませんが、jfbterm というアプリケーションを使うことでこれに対処できます。最初に、カーネルフレームバッファモジュールをロードする必要があります。

# modprobe vga16fb ←ビデオカード固有のものに変更してもよい

以降は、root でも一般ユーザーでも、次のように jfbterm を実行することで、日本語表示できます。「exit」で jfbterm は終了します。

# jfbterm -q

うまく動作したようなら、/etc/modules に上記のモジュール名を追加して、起動時にモジュールを自動ロードするようにしておくとよいでしょう。

# echo vga16fb >> /etc/modules

デスクトップ環境を使う

ここまでの手順で、ひととおりの Etch のデスクトップ環境は出来ました。 各ソフトウェアはパッケージとして管理されており、GUI の Synaptic パッケージマネージャや、端末上の aptitude コマンドで Debian の多数のソフトウェアの追加・削除ができます。

日本語入力

デフォルトでは Anthy と uim という日本語入力の組み合わせがセットアップ済みです。

アプリケーション上で Shift+スペース を押すことで、いつでも日本語入力モードに切り替えて日本語を記入できるようになります(キー操作の詳細については、デスクトップの右下に表示されている状態ウィンドウ経由で確認・設定できます)。

オフィススイート

オフィススイートの OpenOffice.org バージョン 2 は、Microsoft Office に類似した強力なオフィスアプリケーションセットです(図8)。メニューの「アプリケーション」→「オフィス」から呼び出すことができます。

OpenOffice.org
図8●OpenOffice.org

Web ブラウザとメーラ

Web ブラウザには Iceweasel (Mozilla Firefox のロゴ差し替え品) と Epiphany がインストール済みです(図9)。メーラには Evolution がインストール済みですが、Mozilla Thunderbird のロゴ差し替え品である、Icedove を追加することもできます(図10)。

Iceweasel
図9●Iceweasel

# aptitude install icedove icedove-locale-ja ←Icedove および日本語メッセージのインストール
Icedove
図10●Icedove

ネイティブビデオカードドライバのビルド

ビデオカードによっては、X.Org ではなくベンダーから提供されているビデオドライバを使わないとパフォーマンスが出ない、あるいはまったく動かないことがあります。NVIDIA 系のカードであれば、nvidia-kernel ドライバパッケージをインストールします。

# sed -i 's#cdn.debian.or.jp/debian/ etch main$#& contrib non-free#g' /etc/apt/sources.list ←非DFSGのパッケージを取得するための変更
# aptitude update
# aptitude install nvidia-kernel-`uname -r` ← ドライバパッケージのインストール

インストールが終わったら、/etc/X11/xorg.conf をエディタで開き、「Driver "vesa"」(または "nv")のようになっている箇所を「Driver "nvidia"」に変更します。再起動すると、ウィンドウシステムが立ち上がるようになるでしょう。

電力管理

Etch ではデフォルトで電力管理に必要なセットアップが行われているので、シャットダウンを行うと電源も自動で落ちるようになっています。

カーネルの CPUFreq ドライバと cpufreqd パッケージを組み合わせれば、CPU 負荷やバッテリに応じて動作周波数を動的に変更することもできます。

印刷環境の整備

デスクトップ環境の仕上げとして、印刷環境を整備することにしましょう。Etch のデスクトップ環境では、プリンタ管理を一元化できる「CUPS」という印刷システムがデフォルトでインストールされています。CUPS は、CUPS スケジューラを中心とするサーバクライアントシステムで、旧来の LPR や lp システムとの互換性を提供しつつ、PPD プリンタ定義ファイルを使ってプリンタ固有情報の取り扱いやフィルタリング設定などを容易にしています。

Linux の事実上の標準印刷出力フォーマットは PostScript ですが、ほとんどのプリンタはこれを直接印刷することはできず、プリンタネイティブコードに変換する必要があります。PostScript からプリンタネイティブコードへの変換には Ghostscript(gs-esp)がよく使われますが、そのままでは日本語を扱えないので、日本語対応のためのいくつかのパッケージを追加でインストールします。

# sed -i 's#cdn.debian.or.jp/debian/ etch main$#& contrib non-free#g' /etc/apt/sources.list ←非DFSGのパッケージ(CMap関連)を取得するための変更
# aptitude update
# aptitude install cmap-adobe-japan1 gs-cjk-resource

CUPS の設定方法はいくつかありますが、Web ブラウザ経由で設定するのが最も簡単でしょう。URL http://localhost:631 に接続し(図11)、「プリンタの追加」を選んで、接続されているプリンタの追加を行います。後から再設定を行ったり印刷ジョブの操作を行うには、「プリンタの管理」を選んでください。追加したプリンタは、GNOME アプリケーションや OpenOffice.org の印刷メニューから参照して利用できます。

CUPSによるプリンタの管理
図11●CUPSによるプリンタの管理

さらなる情報

この文書では、Debian の日本語デスクトップ環境を構築するまでの手順を説明しました。APT の活用方法や、インストールすると便利なパッケージ群、サーバ構築の方法については、他書や Web サイトの情報などを参考にしてください。


Copyright: 2006-2007 Kenshi Muto